テレビドラマをとおして見る一般市民の”鉱物”親和度の変遷
---軽く考察
2025年7月9日放送のドラマ”最期の鑑定人”を何の気なしに見ていると、冒頭から「まさか」というシーンがあった。
なんと主演の藤木直人の口から「鉱物」ということばが。
続けざまに「劈開が・・・・・・角閃石だ」という言葉が出てきたのである。
中盤になると「タングステンを含む特殊な鉱物が・・・・・・」と言いながら鉱物片を持ち上げる。
そして”JRS-DB”の説明をつらつらとイケメン俳優が語りだし、事件解決へと導いてゆく。
タングステンを含む特殊な鉱物とは?
いくつか挙げてみよう。
鉛重石 Stolzite Sainte Lucie France 薫風花乃堂鉱物ぱーと179掲載品
タングステンを含む樹脂光沢の正方晶系結晶。一見モリブデン鉛鉱に見える。
ストルザイトは1845年にチェコ(ドイツ)で発見されたタングステンの鉱物。
日本では1977年に発見されている。
鉄重石 Ferberite 京都府南丹市 薫風花乃堂 7月の新入荷掲載品
マンガン重石と連続固溶体をなしタングステンの重要な鉱石鉱物だ。
有名な産地は山梨、京都、兵庫。
輝水鉛鉱を伴う鉄マンガン重石 Hubnerite 島根県小馬木鉱山 薫風花乃堂 7月の新入荷掲載品
銅重石 Cuprotungstite 山口県山上鉱山 薫風花乃堂 7月の新入荷掲載品
本来銅重石は緑色のガラス光沢だそうだが、これは被膜状(土状)。スカルン鉱床で灰重石と共存する。
灰重石 Scheelite 茨城県加賀田鉱山 薫風花乃堂 7月の新入荷掲載品
熱水鉱床やスカルん鉱床で産出される。果たして八王子の地質はどうであろう。
”最後の鑑定士”へのリンク
日本全国土砂データベース「JRS-DB(Japanese River Sediments Database):
東京理科大学理学部第一部応用化学科 中井 泉教授らがSpring-8,放射光を使って7年余りかけて開発を続けてきた日本全国で採取した3000点以上の土砂を対象に,ごく微量に含まれる重元素と重鉱物の組成を明らかにし,その分布を日本地図上に画像化したもの。
未知の土砂の産地が推定できるため法科学に応用することで事件の場所を推定する科学捜査に役立ち安全で住みよい社会を作ることに貢献するとされる。 また焼き物や土器の産地推定などにも活用でき幅広い応用が期待できるとのことだ。
かつてテレビドラマにおいて、こんなにも鉱物が注目されたことがあっただろうか?
2000年から続いている水谷豊主演ドラマ”相棒”ですら、時にパワーストーン(シーズン22の15話;神社のお守りブレスレットやシーズン14の10話;青や赤の願い石)のくだりや誕生石の話などはあるが鉱物ではない。
「硫化水素が毛髪から採取されたぞっ」;H2S、
「アーモンド臭がする、青酸カリだ」;KCN、
「靴底から珪砂が」;SiO2
というような遠からずとも近からずの話ばかりだ。
1999年から始まった沢口靖子主演ドラマ”科捜研の女”も同様だろう
(全てを見たわけではないのでご存知の方は教えていただきたい)。
製作者側からすれば鉱物など、わかりずらいものを出し一々説明に貴重な時間を費やすことはストーリー進行に支障をきたすというスタンスなのだろう。
”鉱物”とはそれほどに一般市民にはなじみが薄い。
今年の大河ドラマ”べらぼう”ではロシア産の琥珀が登場するが、遡れば2013年の”あまちゃん”では久慈の琥珀が話題になった。
日本では室町時代から採掘が始まり京都や江戸で南部藩の琥珀は人気が高かったそうだ。
琥珀といえば、6月に終わったばかりの北川景子主演ドラマ”貴方を奪ったその日から”の挿入歌は”ブルーアンバー“。人気バンド、back numberが歌っている。
ジャケットはアンモナイトであろうか、遺伝子の螺旋構造だろうか。
天然樹脂の化石からのインスピレーションによるものか。
い
だが琥珀は鉱物ではない。
ドラマではないが鉱物を主役にした漫画原作のアニメが登場している。
鉱物への親和度は深まりつつあるのか。
しかしアニメ自体マニア・オタクの世界で一般市民とは言えない(失敬)。
また、放送はどちらも東京MXという都内住民向けの放送局だ(ネット配信はあるようだが)。
とはいえ鉱物が以前よりは身近なものになりつつあることは間違いないだろう。
一般市民に親しいと言えば宮澤賢治の作品を忘れてはならない。来年で生誕130周年のためか、2局で関連するドラマが始まった。
今話題の阿部サダヲ、松たか子主演”幸せな結婚”では書棚に宮沢賢治の全集があり、主人公の名前がカンパネルラから取ったネルラ。
始まったばかりの磯村勇斗主演の”僕たちはまだその星の校則を知らない”では主役二人が賢治のファン、挿入歌は”星巡りの歌”だ(因みにその歌は前述の”あまちゃん”でも用いられている)
まだ具体的な鉱物名は出ていないが、2話目では”よだかの星”が紹介されていたから追々登場するだろう。
とても楽しみにしている。
先日の事だが女優、和泉雅子が亡くなった。北極点にも到達した冒険家でもあるが、同じ女優の吉永小百合からこんなコメントが寄せられた。
「銀河鉄道のかなたに飛んで行ってしまわれたのですね」
”銀河鉄道の夜”は日本人の心にしみ込んだ原風景とも呼べる物語の一つであり、これによって鉱物の世界に入った方も多いだろう。
いずれにしても今シーズンは興味深いドラマが多い。
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